今日は午後から工房に入る。四国でたくさんの注文もいただき、楽器製作におおわらわである。
 工房のすぐそばにスーパーがあり、そこでお気に入りの「午後の紅茶 ミルクティ2L」を買って工房に戻る時、その光景はあった。工房の前は実家の畑と田んぼである。畑には、春に収穫できる苺の苗が整然と植えられている。
 私の両親は健在で、今日は二人でその苺の畑に黒いビニール(保温・霜よけ用?)をかける畑仕事をしている。父がクワを持ち、畑の土を整えている。母がビニールをかける作業をしている。二人の距離は約3m。昭和5年生れの父と年下の母。年はとってきたが、二人とも畑仕事をするには充分な体力がある。
 なんだか、イギリスの農園で働く老夫婦の絵の様に、そこだけ緩やかな時間が流れているような、そんなのどかな雰囲気である。こんな風に両親を見るのは、もしかしたら私にとって生れて初めてかもしれない。
 そんな両親が働くそばで、私はパンフルートという平和の象徴のような楽器を製作している。そう思うと、なんだかとても幸せな気分になってしまい、工房に戻る足を遅めて、ほんの数秒であるが二人の光景を目に焼き付けていたのである。心の中では、不意に「ありがとう」という言葉がつぶやかれていたのであった。思春期から、数知れぬほど両親には心配をかけてきた自分である。今度こそ、両親に心底喜んでもらえるような活動を成し遂げようと、工房に入る瞬間に心の中で強く誓ったのであった。