今日は午後からテレビの取材が入った。岡山のテレビ局には、各局にキャラクターがいる。オー君、アレスケ、スパーキー…。今日はトゲトゲ頭の「スパーキー」の放送局の取材だ。(こんな表現では岡山・香川の人しかわかんないだろうなー。)
 工房での取材を終えて、今度は材料の女竹の生えているところを撮影させてくれとのこと。過去にもこの依頼は、たくさん受けたが、すべて断ってきた。言わば、企業ひみつでもあり、撮影したがために、そこで女竹が取れなくなったら、困るのは私一人ではないからである。細い女竹は、キュウリなどの、ツルを伸ばす野菜の支柱にとても便利で、地元の農家の人達はよく使っているのである。また、篠笛作家の人達や和竿を作る人たちなど、多くの人が昔から女竹の恩恵を受けているのである。そんな人達に迷惑がかかってはいけない。そんな思いから断っていたのである。
 しかし、状況が少々変わってきたのである。岡山だけの話ではなく、全国的な傾向だと思うのであるが、一級河川などの大きな川の護岸工事や河川敷の新たな公園化など、河川敷の開発工事が、結構至るところで行われているのである。工事計画の敷地内にある樹木や竹林は容赦なくすべて伐採されてしまうのである。去年は女竹のすばらしい竹林だったところが、今年行って見ると、すべて伐採されて河川敷の工事が始まっていた、という辛い経験を、昨年から何回も経験しているのである。極端なことをいうと、このまま工事が全国的に大規模に勧められてしまえば、河川敷から女竹が1本もなくなってしまうことになってもおかしくないのである。
 だが、これを危機感と感じる人は果して全国で何人いるであろうか。ただでさえ、近年は竹類は「厄介もの」扱いされている存在であるため、河川敷から女竹が消えても「河川敷がさっぱりして見晴らしが良くなった」と感じる人が多くいても、それを危機感と感じる人は本当に少ないであろう。
 韓国のパンフルートの協会は「韓国のパンフルート愛好者は10万人いる」と発表している。当然、需要と供給の原理から、パンフルートのメーカー会社もいくつかあるのである。ただ、私の知る範囲では、韓国製のパンフルートの材料の竹は中国から輸入されているとのこと。日本には、今産業としてはほとんど手付かずの「優良な」女竹の竹林が、あちこちに点在しているのである。といっても、大分や千葉などは日本でも有数の女竹の産地で、ケーナ製作をする人達はよくそちらから購入しているという話しをきくのであるが… そこに新たにパンフルートという日本では新しいジャンルになる楽器が、ある程度全国的な産業になれば、国産の女竹の価値が見なおされるのではないかなとも思う。かなり勝手な、手前みその考え方ではあるが。
 話しが少々それたが、河川工事と女竹の実態を多くの人に知って欲しいという、強い思いを最近特に感じていたので、今回はテレビ撮影を了解したのである。そして、「今にも河川工事が私の一番大好きな竹林の直前まで来ている」現場に取材陣を案内してさし上げたのである。そしてその竹林のすぐそばで演奏も披露、撮影もしてもらったのである。ただ、今回の取材の主旨が若干違うので、どこまで私の思いが放送で反映されるかは正直、疑問ではあるが。
 この問題は一個人がいくら活動しても、状況が変わるものではない。対国土交通省、対自治体・行政の話しになることなのであるから。でも、『備前の風』が、遠い国の竹で作られるようになったら、正直とても寂しい思いでもある。そうなったら『備前の風』の看板は、もう外そうと思う。何とか根付いた産業になってほしいなというのが、おこがましくも私の本音なのである。
 何だか、今日の取材のおもしろい話しを日記に書くつもりだったのが、ちょっと方向が変わってしまったな。というのも最近、変な夢をよく見るからかもしれない。緑(竹の表面の色)と白(節から上に伸びて節間の半分を覆っている女竹類の特徴の表皮の色)のストライプ模様がとても美しい、女竹の広大な竹林を遠目に眺めて和んでいると、どこからともなく轟音を響かせながら、ブルドーザーとユンボがやってきて、その竹林を有無も言わさず、片っ端から、根こそぎ除去していくという、私にとっては「むごさ」を感じてしまう夢をよく見るようになったからであろう。まるで自分の身内に何かされているような…そんな思いなのである。