髪を切った。肩の位置よりも長かった髪を切ったのである。それにはきっかけとなるエピソードがある。地元の保育園から「お誕生会」での演奏の依頼を受け、先月保育園を訪問した時のこと。会場にはたくさんの子ども達が…保育園なので乳幼児から6歳くらいの子まで、年齢は様々である。園長先生の紹介を受けて会場に入ると、場内は騒然とした雰囲気になった。中には黄色い声を発する女の子達も数多くおり、もう10歳大きい子達だったら、さしずめアイドルのコンサートといった具合であろう。空き瓶を使ったパンフルートの説明クイズから入り、子ども達の好きな曲を演奏し始めると、大合唱の嵐で…実に楽しいミニコンサートを送ることが出来た。見ると、最初から最後まで泣いている子ども達が何人かいた。年齢は3歳くらいといったところだろうか。「人見知りなのか、ただむずがっているだけなのか…」中には、涙を流しながらもふんばってそこに座っている、といった子ども達もいた。
 演奏後、園長先生に聞くところによると、どうも涙を流していた子ども達は、「私が怖かった」ようなのである。当日の私のいでたちはというと、上が黒の半袖Tシャツ、そしてズボンも真っ黒である。最近、私のステージ衣装は黒色が基調となっている。これには理由がある。主役のパンフルートが出来るだけ目立つようにと考えているためである。だから「黒子」に近い格好をすることが多くなっているのである。
 想像してもらいたい。身長173cmの私は子ども達にとってみれば「大男」である。そんな見ず知らずの「大男」が、全身黒尽くめで現れ、おまけに髪の毛は非常に長く垂れており、体操座りする子供達の方に顔を近づけようとすると、髪の毛が顔を覆うような状態にも近くなる。そして、手には見たこともないようなものが(パンフルートなのだが)まるで「カマ」のように持たれているのである。私は東北の「なまはげ」を思い出してしまった。泣いていた子達は、さぞや「恐怖」を感じていたのだろう。女の子達の黄色い歓声も、そう考えると恐怖からくる「奇声」だったのだと、妙に納得してしまった。
 だから、それからは長い髪を縛るようにしていた。すると娘に「おばさんみたい」と酷評されるは…。そして昨日の日曜参観日には「来るな!!」と言われてしまったのであった。落ち込んだ私は、意を決して理髪店に行ったのであった。娘に「振られて」髪を切る、なんだか失恋した女性が髪を切るみたいな感じになってしまった。
 髪を伸ばしていたのには理由があり、それは「大きなステージに立っても映り栄えがいいように」ということが一つあった。ほとんどのコンサートが、ステージ上に私ひとりというシチュエーションである。最近やっと、素敵なピアニストが一緒にステージに上がってくれるようになったのだが、それでも「ピアノと彼女と私とパンフルート」だけなのである。だから髪を切るといっても、カヌーインストラクターをやっていたころのように、「スポーツ刈り」にするわけではなく、横と後は多少「長髪」の面影を残してもらったのであった。
 理髪店から帰った私を見て、家族は「女の子みたい」とか「(昭和の)アイドルみたい」と突っ込んだのであった。数日前、知人のY氏に協力してもらって、5月24日に行ったコンサートの動画をYOU TUBEにアップしてもらった。「アベマリア」と「千の風になって」である。この時点では、まだ長髪である。もしかすると、これが最後の長髪演奏の映像になるかもしれない。Topページから見られるようにしているので、御用とお急ぎでない方は、ご覧いただきたい。「なまはげ」風パンフルーティストの最後(かもしれない)の勇姿を。